南部坂雪の別れ

丁度14年前,私が歌舞伎を見始めた時に訳も判らずに都民劇場で買って見たはずの,吉右衛門と故・歌右衛門の南部坂雪の別れの幕切れを思い出した.幕切れ迄は,皺皺で声も聞こえないあんな長老がどうして出るのだろう,と思っていたのに,内蔵助を見送る瑤泉院は,舞台中央真ん前迄出てきていると思いこんでいた.歌右衛門の見送る感情が舞台だけでなく,劇場空間一杯で,今もそれだけは忘れがたい感情が見えた瞬間なのだが,今日見て,瑤泉院は,窓から僅か上半身を覗かせるだけではないか!うぅむ,あれは,あの芸の力は何だったのだろうか?同じく,同じ様な時期な見た,ミレッラ・フレーニのアドリアーナ・ルクブルール.私はNHKホール最前列で鑑賞した気になっているが,その反対であの大きいホールの最上階最後列での鑑賞であった.あぁ,こういう芸の力,最近ご無沙汰しつつあるような.   

昨晩見たコールガールは名匠アラン・パクラ監督作品.当時はかなり評価が高い作品だったそうだが,確かに1970年に精神分析医との対話を入れたり,タクシー・ドライバーの以前に都会の底辺の孤独を描いたのはさぞ新鮮だったろうが今見てそれ以上にはなり得ない.   

国立の休憩時間にささっと見た創立40周年のポスター展.数が少なく残念な中,コールガール制作と同じ1970年の千本桜のポスター,36年前の菊五郎,辰之助,玉三郎が綺麗で新鮮だが,菊五郎が今の菊之助に吃驚するほどそっくり.あと30年したら菊之助の政岡はしわくちゃになるのだろうか?佐千菊さんがおっしゃっていた平成4年4月4日の椅子幅広くなったポスターは確かに面白い.前はそんなに狭かったのか,ご存知な方いらしたら是非教えて下さい.私はその年暮れ以降の観劇からしか知らないので。