ロンドンの医者事情

 上記に続くが、ここで思い出すのが、ロンドン滞在時代の医者事情。基本的にかつての福祉大国の名残から、英国は医療が無料である。但し、無料で得られるサービスは、命にかかわらない限り(大体、ほとんどの施術が命にかかわらないと思うけど)どんどん後回しにされると聴く。よりいい医療サービスを受けるためには、プライベートの保険に入って、通常の保険診療を扱わない、要するに金持ち向けの医者に行くしかない。そのサービスを会社が整えているかどうかも、会社の福利厚生の大きな一環となっている。
 幸い、今までの病気で一番重かったのが、オーストラリアから帰国した後にマイコプラズマ性肺炎になった程度の丈夫な私だが、ロンドンでも何度か風邪をひいて医者のお世話になった。医者といっても、基本、住居のそばにある医者で、ホームドクターとして認めてもらわないと受診は出来ない。ただ、風邪程度だと、我々日本人は、それなりの処方箋を期待するのだが、「暖かくして栄養をつけてゆっくり寝なさい」しかアドバイスをもらえないことが多い。(私)「でも咳がでるし、頭も重いんですけど」(医者)「なら、ファーマシー(薬局)にいって、風邪薬を買えばいい」でちゃん。確かに英国での市販薬は、風邪薬にかかわらず、やけに効いた。小柄な人は、半分量にしないとエライ目にあうこともあるという位に。
 一週間しても咳が止まらずひどくなるので(勿論、その間、ずっと仕事は休んでいないが、それが彼らの常識とは違うのだろう)再度医者にいったところ、今度はやっと抗生物質の処方箋を書いてもらえる。
 考えれば、その方が普通なのだろう。そう思ってから、海外旅行保険にも入っていたので日本人医師にかかったときのこと。海外旅行前だったので、熱っぽいし、不安だったので薬が欲しかったのだ。すると、そこでは、なんと血液検査までしてくれた。念のため、の親切だとは思うが、いくら旅行保険に入っていて私がキャッシュを払うわけでもないけれども、それで数万円、保険会社が支払うことになる。おまけに、薬が数種類出される。
 上記の経験から、また、無駄な薬を飲みたくないと思ったので、思わず生意気に「私はそんな薬、いりません」といったら、かえって私が神経質になっている、と、必要ない精神安定剤まで処方されてしまった。再び、薬を貰う段階で思わず押し問答になったが、看護婦が「あなたがとても神経質になっているから、先生がそう判断したのです。安定剤は、風邪薬よりもずっと副作用も少ないんですから」といわれた。
 それにも一応納得して、必要ない安定剤(と今も私は思っている)は、安定剤好きな友人にすべてあげてしまった。本当はこんなことはいけないのだろうけれども。
 それからしばらくして。その日本人診療所は、日本のある医科大学がロンドンに医者を派遣しているのだが、私に色々と薬を処方した医師のコラムがある英国の日本語新聞に出ていて、「処方箋に不満を持つひとがいるけれども、そのあたりと信用してもらえないことには医者はやっていられない」というようなことが書いてあった。胸が痛くなった。
 処方箋は難しい問題だとは思うけれども、数年間ロンドンに暮らして、やっぱり私たち日本人の身体にあう薬を出してくれるのは日本人医師であった。私の友人で、数ヶ月身体がだるくて仕方が無い、もしかしたら『膠原病』か?とまでいわれた人が、日本人医師から「ピルを英国医師から処方されているからではないか」といわれ、英国医師にそのことをいったら、「ブルシット*1」といわれたそうだが、ピルの飲用をやめてから直ったという。
 やはり、何でも主体的に疑問を持って、自分の身体には自己責任のつもりでいないと大変なことになりかねないと、いつも思う。

*1:凄い悪い言葉で、直訳はウシノクソ、そんなの有り得ない、ウシノクソ程度のものさ、という意味