「失踪日記」

 期待通りの面白さ。先週の「週刊ブックレビュー」では、ホームレス時代の話中心だったが、読んでみると、漫画家になってからの面白いエピソードや、アル中での病院生活やら、赤裸々に漫画だからこそのわかりやすさ、率直さで語らえていて、思わずぐぐっと集中してしまい、オペラ開演に遅刻しないかと不安になった位。*1
 まず感じたのが、作者が人間と接したくなくって、ホームレス時代も林の中にいたくせに、人間観察が大好きなんだなあ、と感心したこと。ホームレス仲間でも、肉体労働者の仲間でも、病院の患者通しでも、吾妻ひでおの見る目がやけに面白かった。
 ご本人の若き頃の漫画家時代では、ネコに向かって「ネコは漫画書かなくっていいな〜」という言葉、わかるなあ、って思う。ネコでも犬でも、動物に対してそういう思いを一度や二度、誰でもしているであろうから。
 漫画家時代の手塚治虫でさえも「ネーム入れられた」というエピソード、ネームを入れるという意味がいまひとつわからず、これから調べないと。どなたかご存知でしたら教えて下さい。また、手塚先生の穴を埋めるのが楽しかったって、それは尊敬する人の代理は嬉しいでしょうけれども、突然の穴を埋めるのって、物凄く大変そうなんですけど。
 実は、表紙の裏が一番面白かった。率直で。それにしても、どうやって、ゴミ箱をあされるのか、その勇気には感服。自殺したくって何度も逃げていったという作者も、山の斜面を使っての自殺も、寝てしまったとか、電車に引かれて死のうとしてその前に倒れたとか、やはり本当に死ぬつもりがなかったからじゃないかなあ、ともチラリと思う。
 どの社会でも、似たような人間関係の構図が必ず出来るものなんですねえ。

*1:それで本当に遅刻したらしたでエピソードですけど。