ベルリン国立バレエ「ニーベルングの指輪」

 素晴らしかった。まず、日本で初演の初日ということで、客席での緊張感。そうそうたる観客が集まっているという雰囲気。ちょいと東京文化会館の冷房が効きすぎの感もあったが、ワーグナーのオペラ「ニーベルングの指輪」が4夜で合計14時間余りかかる中、バレエで四時間。どんなものを拝見できるのか、とワクワク。
 見てみて、やはりベジャールだなあ、という特徴がここあそこに。『M』の最初のシーンのような形で終わったり(座禅のような円座)、『ザ・カブキ』のような扇の使い方をしたり。『第九交響曲』のような迫力だったり。。私はベジャール作品で見た、と今しっかり覚えているものは、『M』『ザ・カブキ』『ボレロ』(シルヴィ・ギエムとスペインのダンサーのものと)、『第九交響曲』程度だが、確かベジャールはフランス人とアフリカ人との混血で、哲学を学んだ才人。常に、アフリカの土の臭い、人間の本質をついたものをぐぐっと身体の動きを通じて私たちに語ってくるような気持ちにさせる作品が多いような気がする。
 今回の新作は、ベジャールが脚本も共作者として担当。ナマ演奏はピアノだけで*1、ナマのピアノ演奏とオケやオペラお録音、そして役者(?)の語り、何人かのダンサーも一緒に歌う、などを音響として使っている。オペラ作品とは別物を考えたほうがいいようで、例えば、私が見た日のブリュンヒルデは線が細く、ヴォータンが二人、そのほかにさすらい人一人、というように、オペラでは一人で演じる役を何人かで使い分けている。そして、このバレエ団はえてして若くほっそりとしたダンサーが多いため、どうもヴォータンやらフリッカのイメージとはずれてしまうが、見ているうちに別の話だと思えてきて納得。マラーホフは、ローゲ(火の神)役で、いわば道化役として最初から最後まで、重要なシーンになると出てくる。
 以前のNBSニュースに、親子であるヴォータンとブリュンヒルデとの禁断のパ・ド・トウがあるとあったが、それだけでなく、なんと若き日のジークフリートと成長したジークフリートとの二人のパ・ド・トウなど、見ていてやけに面白かった。すくなくとも私が一番あってみたい人は、過去でもいい、未来でもいい、自分自身なので、その夢が実現した場面を目の前で見ているような錯覚を感じる。
 とくかく壮大な原作を、壮大に原作に負けないスケールとアイデアとで真っ向勝負のこの作品、まだまだ私には難解で消化不良な箇所が多々あったが、いっぺんでベジャールをもっと見ないと、と思う。私はベジャールの自伝は以前読んだことがあるが、難解だった記憶が残るだけで、また勉強しないと。余りモダンバレエを見ていない身でいうのはなんですが、やはりベジャールは、現代のバレエ振付家で、頭一つ飛び出た存在ではないでしょうか?
 5時開演で、終演が10時近く。舞踊評論家の三浦雅士氏が大声で「ブラアボ!」と叫ぶ姿を見ながら帰路へ。

 追記:はてなキーワードによると、この作品は1990年のもので、1993年の『M』よりも先に出来たとのこと。新作ではありませんでした。ただ、今回はマラーホフひきいる新生ベルリン国立バレエ団向けに当然、手を入れてはあるのでしょうけれども。
(2):印象に残ったダンサーは、ジークリンデ役の長身の若手ダンサー。すいません、配役表が見つからないので、また追って。今日のフリッカはビシニョーワ、小柄で細いブリュンヒルデも追って。(実家においてきたみたい)
(3)ベジャールって、土の香りとともに、泥臭さ、野性味が魅力。

*1:この演奏者のおば様、舞踊もたしなんでいるようで、何度か舞踊にも参加